住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸

4人でキッチンを囲む時間
自分の「好き」を見つけながらつくった家で

「待ちきれない!」という様子で、私たちを玄関の前で出迎えてくれたのは、Kさんの長女で小学1年のMちゃんと3歳の次女Sちゃん。夫のササグさん、妻のマキさんの4人暮らしを拝見しにうかがったのは、2024年2月末入居後から約3カ月後の6月。

住んでみていかがですか?と尋ねたところ、おふたりの第一声は「大満足です!」。ジューンベリーなどの雑木が植えられた庭で、シャボン玉を楽しむお嬢さんたちを見守るササグさんとマキさん。ご家族ののびやかな笑顔に、始まったばかりのこの家での暮らしを、とても楽しんでいる様子が伝わってきました。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸

閑静な住宅街に建つK邸。駅からは少し離れますがバス停は近く、ご近所の方がとてもよい印象だったことも土地購入の決め手となりました。

「活発な娘たちなので、マンションに住んでいたころは、休日はとにかく公園に連れていかなくちゃと。この家に住んでから休日も家で過ごすことが増えました」とササグさん。

「子どもたちにはのびのびと育ってほしいと思っていますが、マンションだとどうしても、走らないで!とかもう遅いから!って言わなくてはいけなくて。それもストレスだったので、今、気持ちにゆとりが出ました」とマキさんは話します。

家族みんなで集ったり、思い思いの時間を過ごしたり。2階は、キッチンから書斎まで仕切りのない大空間でありながら、ゆるやかに独立したスペースとなっています。

きっかけはコロナ禍での在宅勤務。
三牧邸を見学後、土地探しの考え方が広がって

現在のお住まいと同じ市内で、分譲マンションの12階に住んでいたK様。長女が生まれ、5年ほど住んでいたころ、コロナ禍に。同じ会社に勤めていたマキさん、ササグさんとも在宅勤務になりました。

「夫は、将来子ども部屋にする予定の部屋、私はリビングで仕事をしていました。リモート会議も頻繁にあり、お互いの声が入ってしまったり、リビングでの仕事は生活のオンとオフもつけずらかったりしたんですね。今後もずっと在宅勤務がベースになることが決まり、子どもが成長したら仕事のスペースも確保できず手狭になると思ったので、家を建てるのもいいよねと考え始めました」(マキさん)

2020年の夏、おふたりは雨宿りのために入った書店で手にした雑誌で知った「家づくり学校」をたずね、そこで紹介されたオーガニック・スタジオのモデルハウスへ見学に行ったそうです。

「木だけではなくて、アイアンや真鍮、漆喰などを取り入れたデザイン、子どもがいる暮らしなんだけれども、大人の暮らしにもしっくりくるところが気に入りました」とササグさん。

さらに、ササグさんがこだわっていたのは「寒さを感じない家」。

「長女の産後、埼玉県内の私の実家にしばらくいたのですが、窓際などとくに冷気が入ってくるし、とにかく寒くて。家を建てるなら家の中の温度が均一で寒さを感じない家にしたいと思っていたので、オーガニック・スタジオの高い断熱性能にも惹かれました」

その後、オーガニック・スタジオ代表 三牧の自邸兼事務所にも見学に行くことにしました。

「それまで住んでいたマンションの近くで、住宅メーカーの建売住宅も見ていたのですが、いわゆる3階建ての狭小住宅で、狭そうだなと思って入ってみるとやっぱり狭い……。現実を突きつけられた気がしてしょんぼりして帰ってきたよね」とササグさん。

マキさんもこう続けます。

「じつは家を建てたいと思った当初、平屋の家に憧れていました。でも、実際に住宅密集地で実現するのは難しい。見学した建売住宅は、階段も急で狭くて、子どもには危なかったり、家の中も暗かったり。在宅勤務で、週1度程度の出社なので、通勤時間は度外視して、郊外で広い土地を探すしかないのかなと思っていたんです」

そこで、住宅密集・狭小地に建つ3階建ての三牧自邸を実際に見て、これまでの概念を覆されたと言います。

「まったく狭いと感じなくて、入ったときの気持ちよさ、南向きではないのに、家全体がとても明るいことに驚きました。ゆったりとした敷地のモデルハウスと住宅地にある三牧さんの自邸、土地の大きさも使い方も違う2軒両方を見た上で、いかに空間を上手に使うかなんだなと。それなら平屋じゃなくてもいいと納得しました」とマキさん。

土地探しの考え方や選択肢が広がったというおふたりは、その後、現在の土地に出会い購入することに。「あとは、三牧さんがなんとかしてくれる」。そう思ったそうです。

※「家づくり学校」:これから家づくりを始めたい人に向け、家づくりの基本的な知識をレクチャーし、テイストや方向性などのヒアリングをもとに要望に沿った住宅会社を紹介するサービス。住宅情報誌を発行する会社が運営。

2階からダイニングを見下ろして。「吹き抜けは寒いイメージがありましたが、三牧邸を見学して断熱性能の高い家にすればそんなことはないのだなとわかったので、ぜひ吹き抜けをつくりたいと思いました」。ササグさんはここから、2階にしつらえた棚に置いた蔵書、庭、ダイニングと見渡せる光景が好きなのだそうです。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸

独立したワーキングスペース、
子どもと一緒に料理できるキッチンを

在宅勤務となったのを機に家を建てたいと思ったおふたりの希望は、それぞれに独立したワーキングスペースで仕事ができる環境。K邸では、2階にササグさん、1階の和室にマキさんのワーキングスペースを設けました。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸

庭に面した和室がマキさんのワーキングスペースです。「マンションのリビングで仕事をしていたころと比べて、本当に快適で集中できますね」

もうひとつの希望は、「家族4人で料理を楽しめるキッチン」。主にササグさんの希望だったそうです。

「日曜日に私が夕食をつくることが多いのですが、子どもとも一緒にできたらいいなと。キッチンに両側から立てるので、子どもたちが参加しやすくなりました」(ササグさん)

この日も家族4人でキッチンに立ち、卵焼きをはりきってつくってくれたMちゃんとSちゃん。リビングには、にぎやかでそして愛おしい、家族の時間が流れていました。

家族みんなでごはんづくり。「前に住んでいたマンションでは、危なくてキッチンの入口にゲートをつけていました。キッチンの作業台周囲のスペースにゆとりがあるので、みんなでキッチンに立てる。とても楽しいです」(マキさん)

2階の一角に浴室、洗面所、洗濯機を置いた家事スペース、ウォークインクローゼットをつなげました。1階はパブリックスペース、2階はプライベートスペースとわけています。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸
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ツーボウルの洗面台はササグさんのリクエスト。理由は、「妻とふたりの娘が成長したときに、ゆとりをもって洗面・化粧台を使えるように」と。なんという気遣い!

子ども部屋は、将来2つに仕切ることができるようになっています。収納棚は現在はオープンにし、おもちゃや学用品を。「将来はクローゼットとして使えるようにと思っています」。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸
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2階のホールは入浴後、子どもたちが寝る前に絵本を読んだり、おもちゃで遊んだり、ゴロゴロしたり、ととても使い勝手がよいそう。

「壁面の棚は三牧邸の真似です(笑)。本だけではなくいろいろなものが置いてあるのに、雑然と見えない本棚であることに憧れました」と話すササグさんは、長女が生まれた後、生活スペース確保のために蔵書のほとんどを処分し、その後電子書籍を利用していたそうです。入居後、少しずつ古本屋を回り買い集めた本などを置いています。

家づくりは、自分と向き合う時間だった

「三牧邸で見てすごくかっこいいなと思ったので、ぜひわが家にもとあちこち真似させてもらいました(笑)」とおふたりが言うK邸。リビング南側の壁は、レンガの上から漆喰を塗ったもの、キッチンに使われたタイルは、三牧邸と同じものを使用しています。

K邸のダイニングテーブルやダイニングチェア、カーテンはじめインテリア全般もオーガニック・スタジオが手掛けています。

ソファに置かれたキリムのクッションは、オーガニック・スタジオからのプレゼントだそうですが、キリムが醸す雰囲気や風合いが気に入って、玄関にもキリムのラグを新調。今、さらに大きいキリムのラグの購入を考えているとのこと。

玄関スペースには、家づくりを通して初めてそのよさを知ったキリムのラグを敷いて。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸
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「K様と何度もお話しするなかで、様々なことにおいてとても「基本」を大事にされていると感じました。そんなご家族には、流行にとらわれず経年変化を楽しみながら長く使っていけるベーシックなスタイルが合うと思い、そうした方向性でインテリアは提案させていただきました。おしゃべりのなかに感性や趣味を感じ取るヒントがあるので、そこをすくい取って提案できるようにと思っています」とオーガニック・スタジオの三牧洋子さん。

マキさんは家づくりを振り返って次のように話します。

「家を建てようと思った当初は、仕事と子育てで忙しくて、趣味と呼べるものもなかったんです。月に一度の打ち合わせでも、ふたりとも『次に何を決めたらいいですか?いつまでに何を?』と仕事のタスク管理と同じ感覚で(笑)。でも、三牧さんも洋子さんも『大丈夫ですよ』とゆったり構えてくださって、まずは洋子さんが淹れてくださったおいしいコーヒーを飲みながら、近況報告とおしゃべりから。そんなやりとりのなかで、『これ素敵だな』『私はこれが好きだな』というものを見つけていく。ゆっくり自分と向き合える時間だったように思います」
ササグさんは「自分たちの暮らしをさらけ出すことって、これまでなかったこと。でも、これからの自分たちの生き方にかかわってくるので、ありのままを聞いてもらいました。そうして一つひとつ形にしていく。私たちの人生においてもすごく素敵な出会いをいただいたと思っています」と言います。

そして、「上棟がすんだとき、あ、もう打ち合わせがないんだ…ってさみしくなってしまって」と話すおふたり。

入居して3カ月余り。「庭いじりが今楽しいです。草を取るのも無心になれるんです」「庭のジューンベリーを今年はさっそく収穫して食べたんです!もっとたくさん実が採れるようになるのが楽しみですね。ハーブも育て始めました」と土と植物がある生活の楽しさにワクワクしている様子。もともと自然に触れるのがお好きだったからでしょうか。ササグさんが宮城県に単身赴任をしていた頃、一緒に東北の山を歩き、麓の温泉巡りをしていたそうで、「もう少し子どもが大きくなったら一緒に山に行きたいね」と目を輝かせながら話してくれました。

在宅勤務を機に家づくりをスタートさせたおふたりが、その過程を通して見つけたものは、仕事のパフォーマンスを上げる環境だけではなく、自分の好きなことや内面と向き合うこと、これから家族でやりたいことに胸を躍らせる時間なのかもしれません。

庭の雑木が枝を広げデッキに影を落としてくれるようになるころ、この家で成長したお嬢さんとおふたりの暮らしをお聞きしに、また訪ねたいと思いました。

住まい手インタビュー・さいたま市・K様邸
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ジューンベリーの実を収穫したこと。キッチンにみんなで立ったこと。きっとかけがえのない時間として、K邸の記憶に刻まれていくでしょう。

撮影/柏原真己 かしはら・まき

フォトグラファー。東京都出身。写真スタジオアシスタントを経て、2001年よりフォトグラファーとしてフリーランスで活動を開始。90年代半ばに沖縄、八重山諸島を訪れて以来、その魅力に取り憑かれ2003年~2010年まで沖縄に在住。雑誌やCDジャケットを中心に東京や沖縄の様々な媒体を手掛け、2011年より活動拠点を東京に移す。

文/大武美緒子 おおたけ・みおこ

フリー編集者・ライター。さいたま市在住。アウトドア関連の出版社、企業の広報誌や社内報を制作する制作会社勤務を経てフリーに。「身近な自然とつながる」をコンセプトとしたリトルプレス『Letters』編集・発行人。著書に『山の名前っておもしろい』(実業之日本社)、共著に『山歩きレッスンブック』(JTBパブリッシング)がある。